Perfume LIVE [polygon wave] 考察
2021.08.14 17:00 at ぴあアリーナMM
「ポリゴンウェイヴ」
3人の擦れた叫びが会場に響く。
それは、水中から這い上がろうと藻掻くような、苦しい声だった。
「ポリゴンウェイヴ」
苦しい。辛い。重苦があまりにもダイレクトに刺さってくる。
「ポリゴンウェイヴ」
その声は徐々に鮮明に、徐々に大きく、会場へ共鳴する。
「聞こえますか」
「見えますか」
「感じますか」
「一緒に 夢の中へ」
536日ぶりの”Perfume WORLD”が、ここぴあアリーナに展開されていく。
紅いマントを纏い、3人はそれぞれの場所から、一面LEDの巨大なセンターステージへ歩みを進める。その様子は結成10周年を迎えた2010年、初の東京ドーム公演のオープニングを彷彿とさせる。
2010年11月3日、純白の衣装を纏い、「GISHIKI」と称された演目に繰られ、”3人の花嫁”は11年目の舞台へ足を踏み入れた。Perfumeに嫁ぐ、それは永遠の誓いか、それとも呪いか。結成10周年を祝うステージで、”PerfumeとPerfume”は結ばれた。
あれから11年。彼女たちは真紅のマントを被る。これが「GISHIKI」との対比であるならば、赤いウエディングドレスは”内に秘める情熱”を意味する。
アニバーサリーイヤーだった2020年。叶わなかったのは2月26日だけではなかったはずだ。1年半閉じ込められてきた、今にも燃えそうなその情熱は、解き放たれる寸前だった。
「私は 私たちになる」
「私たちは みんなになる」
「みんなが 私たちになる」
秘められていた”Perfume”が、弾けた瞬間だった。
Can't stop feeling
これ以上苦しめないでね
これ以上惑わさないでね
きっとこのまま待って ただ期待だけをして
もうもう 遅いのかな
Perfumeが口にした詩は、序盤から重かった。
今の社会状況で、誰もが日々抱えている現実の葛藤を、PerfumeはArtist=表現者として、楽曲に載せて描き出していく。しかし3人は笑顔なのだ。
今回のライブ、セットリストや幕間では、Perfumeとしては珍しく、ダークな一面が多く含まれていたように捕らえられた。それを背景に3人は、美しい笑顔で踊り、喋り続け、1年半のブランクなど1mmも感じられなかったことが、なによりも印象的だった。
Perfumeは希望そのものだった。
「Pick me up… Pick me up…」
Perfumeが声を掛け、呼び覚ましていく。
楽曲が、そして”みんな”が、息を吹き返す。
Pick Me Up
3人はMCでひっきりなしに「今日は日常を少しでも忘れて」「今日は楽しもう」と、当たり前だったライブ空間を取り戻そうとしていたし、取り戻せていた。私自身、コロナ禍でいくつかのライブに参加しているが、こんなにも現実を忘れさせてくれる空間は懐かしかった。ライブの醍醐味は非現実空間。様々な規制で失われつつあったその醍醐味が、この”Perfume WORLD”には存在した。
楽しい時間を作り出して
心が上を向いたら笑い合おう
その想いはこの楽曲「Pick Me Up」に込められていた。そしてそれは、Perfume自身を奮い立たせるものでもあった。
「私たちが みんなになる」
PerfumeがPerfumeとして「再生」する、まさに”活気剤=Pick Me Up”であった。
再生
最大限界生きたいわ
果てしない光線の海
全身全霊で向かうわ
Perfumeのライブ、二度目のスタートとも捉えられる。PerfumeがPerfumeを取り戻していく。その過程一つ一つが楽曲に反映されている。
あ~ちゃんの初日のMC。「ファンの人たちから手紙を沢山頂きました。”ライブが中止になって新幹線も取っていたのに残念です。でも、3人が一番辛いですよね。またライブ行きます。” 自分たちのこと以上に私たちのことを想ってくれる。沢山救われました。」
君の思い出だけが
心をつなぎとめていた
だけど最後の国から便りが届いて
すぐに行かなきゃ
結局ぜんまいは巻かれた
動き始めた歯車は、まだまだ助走段階だ。
Future Pop
背面のLED一杯に”2030”の文字が映し出される。これはMVの再現か、それとも3人との新たな約束か。
息を吹き返した”Perfume”は、再びArtistとして、未来への階段を駆け上がっていく。これまでもそうしてきたように。
再現する
未来の全てを
空気が
景色が変わっても、意味が変わっても、”Perfume”は変わらなかった。常に前を向いて、走り進み進み進み続けてきた。それはこれからも変わらない。Perfumeでしか見られない景色を作り上げ、積み重ねていく。そう改めて”誓い”を立てた。
TOKYO GIRL
当たり前が当たり前では無かったとはよく言われるが、この「TOKYO GIRL」は”PerfumeがPerfumeとして踊る”という当たり前を、再び当たり前にした象徴的なナンバーだった。
”踊れ Boom Boom TOKYO GIRL”という歌詞が、Perfume自身を鼓舞するかのように、厚く重く会場に響き渡る。踊ること、それは”今、私たちにできること”でもあるし、”いつでもPerfumeができること”だ。しかし観客が居なければ、輝けない。
ファンが居なければ、ライブは―
彼女たちが、今このライブを届けたかった理由、勇観客に拘った理由はここだった。
ここにいるあなたへ
Perfumeは、”求めていた”。
願うなら
Perfumeからファンへの欲求は、揺るぎないものへと変わっていき、その想いは次第に強くなっていく。
一緒に笑い合える関係
それを守りたい
これまでで最も直接的で、最も情熱的な、Perfumeからファンへ向けてのラブレターだった。私たちファンがPerfumeを求めているのと同じくらい、もしかしたらそれ以上に、Perfumeもファンを求めていた。
「今日は私たちだけのフィールドで」
言葉の真意は明確には分からない。しかし事実として、彼女たちは世界中の人々から注目を浴びる一つの機会を失った。それも陰湿な大人の利権によって。それによって自分たちも、大切な人も傷を負った。負う必要のない深い傷だった。
無力、失望。苛まれた結果、求めた原点。
一緒に笑い合える関係。それを守りたい。
バックダンサーと共に踊ったこの楽曲には、幾重もの感情が詰め込まれていた。
キミを守りたい
これくらいのかんじで たぶんちょうどいいよね
どれくらいの時間を 寄り添って過ごせるの?
わからないことだらけ でも安心できるの
ファンクラブ限定ライブ。それはPerfumeが”内向きのPerfume”を包み隠さず表現できる唯一の場所と言ってもいい。
536日ぶりのワンマンライブは、どんな形であってもいいはずだった。
それでもファンクラブ限定に拘ったその真意は、PerfumeがPerfumeの居場所を必要としていたからだった。
「あなたの声は 私の声は みんなの声は」
「あなたの存在は 私の存在は みんなの存在は」
「あなたの気配は 私の気配は みんなの気配は」
「私を 私にしてくれる」
「でも それは届かない」
悲痛だった。
この1年半、繰り返された”中止”。
ライブが出来ない。
Perfumeの真意と、エンターテインメントに関わる全ての人の叫びだった。
エンターテインメントは不要不急じゃない。Perfumeは黒いマントを纏い、それぞれのステージで力強く踊る。
「私が 私になっていく」
「今 それを届ける」
このライブ、三度目のスタートが切られる。
1年半前のあの日、Perfumeから止まってしまったエンターテインメントを、Perfumeが再開させることに、大きな意味があった。
コレハユメ?
そばに誰もいないなんて
言葉が出なくて
ここからPerfumeは、急速に”Perfume WORLD”の再構築を始めていく。
失われた日常。
Perfumeがこの日まで考えて、選んだ選択、選んだ道。
それは、これまで通りの非日常空間を提供することだった。
今が夢
キミの夢
ボクの夢
ライブという夢の景色が、長い間夢を与え続けてきた空間が、「未来は明るい」と伝え続けてきた”Perfume WORLD”が、一気に形作られていく。
無限未来
「未来は明るい」
このメッセージをPerfumeから何度も受け取ってきた。
そしてこの状況でも、尚「未来は明るい」と断言するPerfumeに感服してしまった。
出口は見えない、そして本人たちの明確な未来も今は見えていないはずだ。なのに「未来は明るい」と、そう言うのだ。なぜ言い切れるのか。
それは、今日のライブをここまで演じたことで、確信できた未来だった。
ライブが出来るのなら、私たちとみんなが居るのなら、私たちの未来も、みんなの未来も、明るくなる。
ライブは必要だ。
今日ここまで披露した楽曲の一つ一つの意味を余すことなく汲みだし、その全てを「無限未来」は昇華させていった。
もうそこのステージに居たのは、紅白の中継で、コーチェラで、東京ドームで目撃した、夢と希望を叶えてきた、無敵のPerfumeだった。
キラキラの夢の中で
無敵のPerfumeはさらに続ける。
もう彼女たちを止めることは誰にもできない、誰にも邪魔できない。
キラキラの夢の中で
僕たちは約束をしたね
その日がいつかくるまで
泣かないよ 思い出すよキミを
祈って キミと 笑って
会場中の照明が、レーザーが、煌びやかな笑顔で踊るPerfumeを照らす。Perfumeから目が離せない。
眩しい。こんなにもこの人たちは眩いのだ。
銀紙吹雪が、眩いPerfumeをさらに輝かせる。
照明も衣装もPerfumeも涙も、何もかもが眩しかった。
夢も、希望も、未来も、約束も、祈りも、全部全部この時間に詰まっていた。
Perfumeは最高だ。
全てを手に入れたPerfumeは、いつも通りのライブを続けていく。
「P.T.A.のコーナー」には懐かしい振付やコール&レスポンス、ダンスが復活し、改めて原点をなぞっていった。
さらに「FAKE IT」「ポリリズム」と続き、これぞPerfumeの真骨頂と言わんばかりのパフォーマンス。
世界で一番好きだ的な
あなたしかいらないのよ的な
あなたのために生きるわ的な
ことなんて絶対に今は言わないわ
Perfumeも、ファンも、溢れる愛を叫ぶ。叫べる空間がファンクラブ限定ライブにはある。
声は出せなくても、愛は叫べる。
それをこの楽曲が証明してくれている。
ほんの少しの 僕の気持ちが
キミに伝わる そう信じてる
Perfumeの気持ちも、ファンの気持ちも、お互いに充分伝わっている。それには双方とも気付いている。相思相愛の関係は最初から築かれていた。
いや、また私たちはPerfumeに惚れていた。もう何度もPerfumeに魅せられてきたはずだ。
今日、私たちはまたPerfumeを大好きになった。
僕の time warp
「ポリリズム」→「Time Warp」と、13年間を一気にワープする。
あの頃に見てた 全てがほら 宝物になる
あの頃夢見た 全てがほら ショーウィンドウにある
無敵のPerfumeが送る、全ての人へ向けた最強のエールだ。
胸を張ってこの歌詞を口にできることが本当に凄い。
自分達の過去にここまで自信を持てるPerfumeとは一体何者なのだろうか。
What should I do ?
この社会状況で、Perfumeがすべきことは何だったのか。
気にしているだけじゃ、願うだけじゃ、叶わない。
夢と希望の先駆者は、その経験則から、一言だけ会場に残していった。
起こせミラクル
奇跡は起きるものではなく、起こすものだ。
彼女たちは、自信と誇りに満ちた笑顔でそう言った。
指先で掴むのはどの未来?
「もうライブが出来ないんじゃないかと、何のために生きているんだと、そう思う日もありました。」
当日中止。中止。中止。
迎えた2021年8月14日。
集まった5000人。
もう一度、ライブをすることが出来た。
Perfumeと同じ空間を共有することが出来た。
その証拠がこの曲だった。
愛のメロディー つめこんだまま
今日も会いに行くよ
Perfumeが、再び私たちの目の前に帰ってきた。
全員で手を挙げたあの一瞬。
気持ちも空間も、あの日以来、一つになった。
ステージに立つの
今日、Perfumeが一番伝えたかったことが、最後に全て詰まっていた。
Perfume=ミラーボール、ファン=輝きに例え、”お客さんがここにいることで、怖いけど、だいじょうぶって背中を押してくれるから、ステージに立つことが出来る”と、そう言う。
この情勢で、有観客ライブの必要性を真剣に考え、導き出したPerfumeの解を訴えた。
「私たちは 夢の中」
「キミと 僕」
「そっちと こっち」
「こっちと そっち」
「一緒に」
「See you at the next stage.」
そう残し、星空のように煌びやかな空間から、Perfumeは去って行った。
ライブとは、”Perfume WORLD”とは。
ライブの素晴らしさそのものを極限まで魅せ、それをそのまま強訴する、Perfumeなりの、Perfumeの立場として出来る、最高の意思表明だった。
・・・
ここまで読んで頂きありがとうございました。
ライブ前のTV Bros.記事で、あ~ちゃんが「私たちの想いを余すことなく受け取って欲しい」とのことで、私なりに色々考えて、感じたことをなるべく言語化しました。
分かりにくい所、読みにくい所は追々修正していくと思います。
今回はあくまでも考察ということで、ライブ自体の感想はまた書くかもしれないです。かもです。
本当に素晴らしい、楽しい、これまでのPerfumeのライブで一番と言っても過言ではない、良いライブでした。これでしばらくは上手く生きていけそうです。
今回も5000文字オーバーとまとまりがない文章でしたが、読んで頂いた方、ありがとうございました。
Perfumeっていいですよね。
・・・